今回取り上げるのは、今をときめく建築家、安藤忠雄氏の東京大学大学院での講義をまとめた書籍です。3年ほど前にこの本を一度読み、最近また勇気をもらうために読んでいる本です。現在はわかりませんが、華々しく活躍している氏が、建築のコンペ(設計競技)において、本書のタイトルのとおり、殆ど負け続けていたとのこと。建築の世界は、まったく門外漢の私ですが、この事実に驚くと同時に、氏の負けても戦い続ける姿勢やその根底にある建築家魂に感銘を受けました。
コンペのスケールは全く違えども、私の業界もコンペの多い業界であり、クライアントが新製品のエージェント選定を行う際には殆どコンペが実施されます。そして、勝つことより負けることの方が圧倒的に多く、これまで多くの辛酸を嘗めてきています。負けてしまえば、短期的にはそれに費やした時間と労力は無駄になってしまいます。更に、負けることが続けば、気が滅入ってしまいます。そんなときに、手にとって読み返したい書籍です。
私自身が、勇気をもらったくだりをいくつか挙げておきます。
・ギリギリの緊張状態の中にあってこそ、創造する力は発揮される。条件の整った仕事よりも、コスト的・条件的に苦しいときの方が、意外によい建築が生まれることが多い。
・コンペを通じて、自らの建築への姿勢を問い直し、その意志を確かめる。そのような思考の時間をもつことができることが、コンペに参加する意義といって過言ではない。
・大抵の人間は、この苦難のときを耐え切れずに終わってしまう。しかし、ル・コルビュジエもカーンも、決して諦めなかった。妥協して生きるのではなく、戦って自らの思想を世に問うていく道を選んだ。与えられるのを待つのではなく、自ら仕事を作り出していこうとする、その勇気と行動力こそ、彼等が巨匠といわれる所以なのである。
・コンペで勝てなくてもアイディアは残る。実際、コンペのときに発見した新たなコンセプトが、その後に別なかたちで立ち上がることもある。そもそも、実現する当てもないプロジェクトを常日ごろから抱え、スタディをくり返し、自分なりの建築を日々模索していくのが建築家だろう。だから、連戦連敗でも懲りずに、幾度でもコンペに挑戦し続ける。建築家の資質として必要なのは、何をおいてもまず心身ともに頑強であること、これだけは間違いない。