「RNAルネッサンス 遺伝子新革命」 田原 総一郎/中村 義一

かつて、DNA情報を伝達するだけの「運び屋」と考えられ、日のあたらなかったRNA。しかし、ヒトゲノムの解明が進むにつれて、RNAの働きが非常に重要であり、むしろDNAを操る役割を持つことがわかってきた。

本書は、ジャーナリストの田原総一郎氏が聞き手となり、RNA研究の第一人者中村義一教授にRNAの働きや医薬品への応用の可能性についてインタビューした内容をまとめた書籍です。一般に難解な遺伝やDNA,RNAついて比喩的な表現を使うことで、素人にもわかりやすく解説されています。私自身もこの分野に関する知識は全くありませんが、本書を通じて、RNAを取り巻く研究について少し理解することができました。また、田原氏、中村教授の対談もテンポ良く、楽しく読むことができました。

今後、一層RNA研究が進展し、また国、産学の協力体制が強化され、がん、エイズ他難治性疾患の治療薬の開発、臨床応用が早期に実現することを期待します。

さて、本書の概要を以下にまとめます。

第1章 主役に躍り出たRNA
かつてのDNAを中心とした「DNA→ RNA →たんぱく質」の一連の流れを考える「セントラルドグマ」の考え方では、RNAは脇役に過ぎなかった。しかし、1981年トム・チェックがRNAにタンパク質である分解酵素のはたらき、「触媒機能」があることを発見して以来、RNAが注目されることとなった。

第2章 ゲノム特許を独占した米国
アメリカ(及びアメリカを中心とする連合)によりゲノムの約90%が解明され、特許も取得されている。日本が解明したゲノムは、約6%であり、これは1990年日米のライフサイエンスへの投資への考え方、金額の違い(1990年で日本のライフサイエンス研究費はアメリカの1/10)に起因している。

第3章 高等動物と下等動物の違い
2004年になり、高等動物である「ヒト」と下等動物である「線虫」のDNAの数は、22000個で同じであることが解明された。一方、そのRNAの発達度は大きくことなっている。DNAが高等動物と下等動物で同じであれば、生物の進化に関わっているのはむしろRNAのはたらきの違いである考えられるが、その結果、RNAのはたらきが一層、注目されることになった。

第4章 選択的スプライシングとノーベル賞
1つの遺伝子から異なるタンパク質に対応した複数のメッセンジャーRNAを作る仕組みを「選択的巣プライシング」というが、その現象の発見により1993年にノーベル賞が出た。

第5章 ノーベル賞級の発見
特定の遺伝暗号(コドン)にあてはコドンを解読するには、DNAに書き込まれた遺伝子の「入口」と「出口」の「鍵」の両方を研究する必要であるが、多くの研究者は「入口」の研究を行った。自分(中村教授)は、「出口」の研究を行い、タンパク質がRNAもどきだということを解明した。
つまり、遺伝暗号(コドン)は、遺伝暗号の配列と相補的な3つの塩基(アンチコドン)
を持つトランスファーRNAによってアミノ酸に解読されるが、翻訳の終止コドンはトランス
ファーRNAによらずにタンパク質によって解読される。
そして、そのアンチコドンもどきのタンパク質の部分をペプチド・アンチコドンと呼ぶ。

第6章 擬態という新しい概念
RNAの98%がジャンクRNA(=ノン・コーディングRNA)であり、それが重要な役割を持つことがわかりつつある。しかし、その謎は世界的にもまだ解明できていない。
このジャンクRNAを理解してもらう概念として「擬態」に注目しているが、「タンパク質でできた人間の体内でRNAが働くとき、タンパク質をそっくり擬態したような形で様々なところにネットワークを架けている」可能性を仮説として考えている。今後は、この「擬態」の仮説を解明するための研究が必要である。

第7章 期待されるRNA医薬品
RNAを利用した医薬品は大きく分けて、「低分子」RNA、「アンチセンス医薬品」、「リボザイム」を医薬品にしようとする試み、「アプタマーRNA」の4つがあり、ターゲットにしているのは、「アプタマーRNA」である。「アプタマー」とは、化学合成された長さの短いRNA製剤で、特定のタンパク質に対して結合活性があるものを指す。「Macugen」が、2004年12月に世界初のアプタマー医薬品としてファイザー社から発売されているが、他の製品開発には、規制、システム、開発費などの課題がある。

第8章 RNA「ワールド」
生命の起源を巡る現代の議論では、タンパク質よりも先に核酸が出現したという見方が強くなっている。RNAには、自己複製、酵素のはたらき(触媒)など多様な機能があきらかになっていることから、生命の起源という意味で「RNAワールド」と呼ばれている。
ヒトゲノムの研究が進むにつれて、タンパク質やDNAが中心と考えられてきた世界からRNAこそが重要な役割を担うという考え方をRNA、RNAルネッサンスが本格的に到来すると考えている。

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