ご存知のとおり、1990年代以降大手グローバル製薬企業間の大型合併が活発化し、2000年以降は国内においても大手製薬企業間の合併が活発化しています。製薬企業の競争優位の源泉の大きな要素の一つは、「大型新薬開発能力」であることは周知のとおりですが、それが合併により獲得することができるのか?また、合併せずにこの能力を獲得してきた企業はなぜそれが実現できたのか?という問いに答えるのは製薬企業の経営に携る経営幹部の皆様やそこで働くビジネスマンにとっては非常に興味深いのではないでしょうか?
本書は、1990年代以降繰り返されているグローバルな製薬企業の大型合併が、企業成長にどのような影響を与えているかを、米国ファイザー社をはじめとする合併による企業成長を求めた企業と合併に頼らず成長を果たしてきた米国メルク社とを比較しつつ、多数のデータを分析し、統計手法も駆使しながら、その要因に迫った書籍です。
データの入手が困難でありいくつかのデータが入手出来ていない点、合併による企業成長への影響の解を得るには、さらに長期的な観察や分析が必要である点、「ブロック・バスター」に関して、マーケティングやMR力などの分析などが不足している点などが気になりますが、本書で取り上げたような研究テーマは、個人的に非常に興味深いものです。
さて、本書の概要をまとめてみます。
医薬品企業の理論的企業成長プロセスとは、「持続的競争優位の源泉である特許に保護されたブロック・バスターを研究開発する能力により、その成果であり、またその企業の内部資源となるブロック・バスターを創造する。そして、主要薬効市場にポジショニングを行い、大規模臨床試験などのデータに基づき差別化を図り、競争優位を獲得する。その結果、相対的に高い売上高成長率を達成することで、他社より高い企業成長を成し遂げる」と規定する。
1980年代後半以降2000年までの医薬品企業の水平方向の大型合併については、ブロック・バスターの数という競争優位の源泉としての内部資源に影響を及ぼしていない。また、医薬品関連特許数という競争優位の源泉としての内部能力にも影響を及ぼしていない。
1994年~2000年以降の大型合併の事例を分析した結果、特許が失効するまでの期間に限って企業成長に有効であることが示された。
水平方向の大型合併を経験していない米国メルク社は、同社の企業倫理的価値観に基づく倫理的企業活動によって、研究者を魅了し、士気を向上させることで、持続的競争優位の源泉である研究開発能力を高め、特許に保護されたブロック・バスター数の創造、主要市場へのポジショニング、差別化により他社を上回る企業成長を遂げている。
米国ファイザー社は大型合併によって他社を上回る企業成長を遂げている。それは、自社の研究開発能力が突出した水準ではなくとも、相対的に高水準まで向上させること、そして、自社が創造できない主要薬効市場における資源であるブロック・バスターを獲得することを目的とする大型合併で他社を上回る企業成長を遂げていることが示された。