「実践 医薬品マーケティング・コミュニケーション」 古川 隆

今回紹介させて頂く書籍は「DTCマーケティング」の著者、古川隆氏の第2作目「実践 医薬品マーケティング・コミュニケーション」です。

私自身も製薬企業に8年、その後14年「ヘルスケア・コミュニケーションズ」(医薬広告企業)業界に身をおいていますが、ご本人から本書が2006年の7月頃をめどに上梓されると聞いていたので、業界人の一人として、発刊を非常に楽しみにしていました。

率直な感想としては、医薬品マーケティング・コミュニケーションの実務経験者ならではのリアルな感覚が伝わってきましたし、また、随所に、実際にご本人が何を言いたいのか、言外の思いを感じる箇所もありました。その点からも、非常に楽しく読ませて頂きました。

内容についてですが、タイトルに違わず、まさに「実践」的で、若手の医薬広告代理店のAE(Account Executive)や若手プロダクトマネジャーなどにとっては、実務を遂行する上で、格好の「教科書」、「入門書」として非常に役立つ内容です。また、ベテランのAEやシニアのプロダクトマネジャーにとっても、今一度、これまでの知識を整理してみたり、アップデートする上で、一読に値する内容ではないかと思います。

特に、第6章の「新しい医薬品マーケティング・コミュニケーション(DTCマーケティング)」は、氏の前作 「DTCマーケティング」の概説的内容に加えて、米国における最新動向や、わが国の患者向け情報提供の現況についても言及されています。私自身、今後DTCマーケティングは、特別なものとしてではなく、医薬品コミュニケーション戦略の重要なパーツの1つとして位置づけられるものと考えていますが、そうした息吹を感じられるこの章も価値ある内容です。さて、業界内の人間の立場から見ると、古川氏に「よくぞ、言ってくれた」と感謝する内容でもあります。

それは、「ヘルスケア・コミュニケーションズ」(医薬広告企業)の立場として、クライアントである製薬企業へのメッセージを示してくれたこと、「業者~顧客」といった上下関係ではなく、具体的にお互いパートナーとして、相互に切磋琢磨し、信頼関係をはぐくむことの重要性を本書で明確なメッセージとして発してくれたことです。

もう1つは、マーケティング・コミュニケーションのそれぞれの要素についての整理と解説です。私自身も10数年の業界経験の中で、多くのクライアント様と様々なプロジェクトをご一緒させて頂きましたが、本書のタイトルの一部である「マーケティング・コミュニケーション」を包括的に理解・整理されている方は少数派でした。また、広告・PR・SPなどのコミュニケーション・ミックスのそれぞれの機能・特徴・役割についての理解も同様です。

「広告」、「販促」、「PR」などの言葉は、われわれマーケティング・コミュニケーションに携わる者としては、実務を進める上で、日常的に使用する言葉です。しかし、こうした「意識せず繁用される言葉」は、会話の中で相互に意味を確認しないまま仕事を進めていけば、大きなミスに成りかねません。 同じ言葉を、会話する当人同士が、違う意味で使ったりすることや、「定義」や「範囲」があいまいなまま使われていることで、相互の解釈が異なりミス・コミュニケーションが起こることも経験してきました。

本書では、医薬品マーケティング・コミュニケーションのコミュニケーション・ミックスのそれぞれの機能・特徴・役割に関して、「一般論」としてではなく、「実践者」・「実務者」の視点で、わかりやく整理、分類、解説されています。更に、販促資材や医学総合雑誌などの実物の写真もふんだんに 使われているため、いっそう、わかりやすい内容になっています。少なくとも、われわれのような「医薬広告企業」のスタッフは、これらの内容について十分理解していることが求められるでしょうし、医薬品企業のプロダクトマネジャーにとっても、この書籍の内容を理解することで、「医薬広告企業」とのコラボレーションを円滑に進めることができるでしょう。その点で本書の意義は大きいものです。

ただ一点、医薬品の採用・普及プロセスと、マーケティング・コミュニケーションの各要素の関係について触れた部分が少なく、やや「平面的」な内容になっています。本書のコンセプト、性格上の問題で、この点について言及するのが難しかったかのかもしれせんが、マーケティング・コミュニケーションのプランニングに活かす点からはこうした視点もあったほうが良かったと思います。

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