以前、このメルマガで「オムニチャネルとは何か?」を取り上げました。
オムニチャネルは、一般的に消費者向の商品の「流通」と「小売」で使われる概念です。実店舗やウェブ・ソーシャルメディア・テレビ・DMなどオフラインを含むあらゆるチャネルを統合する考え方です。
顧客を起点にし、あらゆる接点を連携させることで、たとえどのチャネルを経由しても、商品の認知から購買に至る全てのプロセスにおいてシームレスに買い物ができる環境を作ろうとするものです。そのためには、流通から小売に至る場合は、ECの仕組みやサプライチェーンの再構築が不可欠です。
しかし、医薬品のマーケティング・コミュニケーションに限って考えれば、サプライチェーン自体を考える必要はなく、医師が情報収集する際の接点の分析、そしてのそれらの最適化、つまり「コミュニケーション・デザインの再構築」が「オムニチャネル化」に求められます。
今、医療者と製薬企業のコミュニケーションのポイントは、MR・学会・セミナーなどのリアルな場と、自社の医療者向けウェブサイト・医学系ポータルサイト・SNSなどウェブ上と、多岐に亘っています。
・それらのデータをいかに管理・統合するか?
・集めたデータをどう分析して活かすか?
・普及するスマートフォンを、コンテンツやサービス提供のデバイスとしていかに活用できるか?
といった観点で考えれば、流通業におけるオムニチャネルと、医薬品マーケティング・コミュニケーションの課題は共通と言えます。このことは昨年にもメルマガで書きましたが、1年を経過した今、ますますその必要性を感じています。
今回から数回に分けて、医薬品マーケティング・コミュニケーションにおける「オムニチャネル化」について考えてみます。
まず、今回はその背景について考察します。
1.ウェブマーケティングやe-detailingのウエイトの高さ
現在、多くの製薬企業様でウェブマーケティングやe-detailingのウエイトが高まり、一定の比率になってきました。過去においては、MR活動に代わる補完的手段にすぎず「選択肢の1つ」であった
ものが、現在ではその役割が高まり「必須の手段」へと変化しています。
一方、MR活動とウェブマーケティングやe-detailingの連携や統合がなされているケースは少なく、バラバラに動いている、つまり「マルチ」であっても「オムニ」ではない状態が多いと感じています。
視点を変えれば、連携や統合によってコミュニケーションの「シナジー」が発揮できる余地が十分あると考えられるのです。
2.固定費の低減の必要性
過去においては比較的恵まれた環境にいた製薬業界ですが、医療費の削減政策、競合の激化などの変化の中で、固定費を増やすことなく、売上や利益を確保しなければならない時代になってきました。
固定費の中で大きなウエイトを占めるのはMRの人件費です。毎年MRを多数増やして、マンパワーで売上を伸ばす施策はもはや難しい選択となっています。
そのような状況の中では、限られた内部のリソースや過去から蓄積した医師との関係性をうまく活かしながら、外部のリソースを活用し、固定費化しない柔軟なコミュニケーションモデルの開発が課題になりつつあると言えます。
3.ITの進展とコミュニケーション手段の選択肢の増加
スマートフォンやソーシャルメディアの普及によって、情報を提供する側も、入手する側も「コミュニケーション手段」の選択肢が大きく増えています。
メドピアに代表されるSNSが発展した今、たとえば、
医師はMRから情報を入手
→ 医学論文でエビデンスを確かめる
→ さらに、メドピアで他の医師の評価を確認する
といったことができるようになっています。
過去においては、
→文献検索し、複写で情報入手
→学会で知り合いの先生に聞く
などのプロセスが必要だったことが、今まではPCやスマートフォンで簡単にできてしまうのです。このようなITの発展やソーシャルメディアの進化は、医師の情報収集行動に変化をもたらしています。
一方、製薬企業も、これらのメディアを活用しようとすれば、いくらでもできる環境にあります。
医師がひとつのコミュニケーションのポイントだけで情報収集行動を完結せず、その特性によって使い分けることが可能になった今、「採用」や「処方」という製薬企業にとっての成果の1つを高める上で、医師と製薬企業のコンタクトポイントを見直すことが大切です。
そして、それらを最適化させるためには「オムニチャネル」的な視点でコミュニケーションを連携・統合させていくことが求められるのではないでしょうか?
次回は、オムニチャネル化にステップについて取り上げます。