今年最後のIT用語解説は「ピア・プロダクション」です。
「Peer Production」と書いて、「同等の人、仲間、同僚による生産」という意味ですが、IT用語では「不特定多数の人がそれぞれの情報や知識を集め、Web上で共有しながら発展させること」といった意味で使われています。
聞き慣れない言葉かと思いますが、「ピア・プロダクション」によるコンテンツは、実はすでに多くのウェブサイトで見かけたことがあるものです。
まずは「ピア・プロダクション」の具体的なコンテンツがあるウェブサイトが、どのようなものか、見ていただければイメージをつかんでいただけると思いますので、いくつかご紹介いたします。
上記のウェブサイトではいずれも不特定多数の人たちがお互いに情報を共有し、さらにその情報を利用した人が情報を追加することで、ますます情報の共有が広がっているものです。
「ピア・プロダクション」によって生み出される情報には、企業がアピールしたい情報だけではなく、ネガティブな情報・批判的な情報も含まれています。
それらの情報の質や精度が、「書き手」の意図、感情、知識レベルなどの要因に影響されるため、全てが信頼できるというわけではありませんが、共有される情報が増えれば増えるほど、推敲される、あるいは浄化作用がはたらくことで、信頼性が高まる実例が多く見受けられます。
その結果、より多くの利用者を集めることができるようになっていくのです。
さて、前回「AISAS」というインターネット上の消費者の行動モデルを紹介しましたが「ピア・プロダクション」とは、「AISAS」の最後の「S」、「Share 共有する」を実践しているケースです。
この「ピア・プロダクション」を積極的に活用している代表的なサイトとしては、冒頭で紹介した「ウィキペディア」、「アマゾン」に加え、日本最大の「SNS」サイトである「mixi」などがあります。
そして、これらのサイトはいずれも非常に多くの利用者を集めています。
このように「ピア・プロダクション」を使って、不特定多数の人たちの集合知を集める仕組みというのは、「Web 2.0」を体現するウェブサイトには必須だと言えます。
では、この「ピア・プロダクション」を医薬品マーケティングではどのように活用できるでしょうか。
以前に「SNS」の解説でも述べましたが、医薬品マーケティングのウェブサイトで「ピア・プロダクション」のような「Web 2.0」を積極的に導入しているウェブサイトはほとんどありません。
医療従事者向けウェブサイトでは、閲覧者も「医師」「医療従事者」であり、専門的な知識を持っているともに、自分の持っている意見と他の専門家の意見を交換し、より高いレベルで止揚を目指したい、と考えているケースは少なくありません。
そうした多くの医療従事者の自発的な協力により、用語集や薬剤に関する最新情報が発信されれば、そのウェブサイトが良質な情報を共有できるメディアとして認知され、自社・製品のブランドを高めるメディアとなりえるのではないでしょうか。
「ピア・プロダクション」が実行されることは、運営者側が共有される情報をコントロールできないなどの課題もありますが、これからの「Web 2.0」の時代に、集合知を集める仕組みとして、「ピア・プロダクション」的な発想をウェブサイトに取り入れることは必要ではないでしょうか。