短期と長期!ROIをどう考えるか?

さて、今回は医薬品マーケティングの施策を実行する際、よく議論になる費用対効果「ROI」について考えてみます。

どの業界でもそうですが、新たな施策を企画・実行しようとする際に問われる指標「ROI」、よくご存知の「Return on Investment」です。

一般的には、投資した資本に対して得られる利益の割合で、パーセンテージで表されます。
また、広告などの場合には、売上を費用で割る場合もあります。

いずれの場合も「使った金額に対してどれだけの見返りがあるか?」を示す重要な指標です。

この指標は、投資と見返りが1対1の対応をしている場合はわかりやすくてシンプルです。
たとえば、通信販売で、ある地域に新聞の折込ちらしで販売促進を実施したとします。

使った費用が100万円で、売上が200万円、粗利益が120万円なら、利益は20万円。
利益で見た場合のROIは20%、売上なら200%ということになります。

しかし、医薬品マーケティングでは、使い方が少し難しいように思います。
なぜなら、医薬品マーケティングの場合は、ご存知のとおり、活用するマーケティング手段が多様であり、投資と見返りが1対1対応とならないからです。

たとえば、ノベルティグッズの提供と製品の売り上げとの関係性はどうでしょうか?
使った費用に対して、直接、採用や処方には結びつかないですね?

ただ、提供したグッズに、企業名や製品名があるので、リマインド効果やブランディング効果はあり得ます。

では、この「効果」はどう考えればよいでしょうか?
売上を目的関数にした場合、ROIは「0」に近くなって、単純に考えれば意味がないことになります。
しかし、実際には、多くの製薬企業が何らかのノベルティグッズを提供されています。
これは、やはり「意味がある」との判断の結果ですね。

こうした場合の「ROI」をどのように考えればよいでしょうか?
一つの考え方として、ROIを「短期」と「長期」で分けることで、ある程度、使い分けができると思います。

まず、短期的に考える場合。
たとえば、売上向上や既採用施設での処方アップなどの場合、従来の施策にアクションを追加すれば、そのアクションの影響により、目的関数が変動しますから、1対1対応の関係としても数値が大きくぶれません。
医療従事者向けサイトへの会員登録を、ウェブを使って促進するなどの場合も同様です。

短期的に結果が出て、1対1対応と考えてもよい場合は、先ほど説明したROIを適用できると言えるでしょう。

一方、長期に考える必要があるケースは?
若手医師や未コンタクトのKOL候補との関係性構築、ブランド・ロイヤルティの向上etc・・・

こうしたケースは、成果を得るために比較的長期にわたる活動や施策が必要なこと、定量化するためには調査なども必要であること、施策と成果が1対1対応するかどうかの判断も難しいことから、単純にROIで評価することはできません。

また、これらの成果を表す指標が1つとは限らず、「何が正解か?」は置かれた状況や目的によっても変わります。

しかし、長期的な売上の観点からは「ROIで評価できないから、こうした取り組みができない」ということが答えでは不正解であることは、多くの方にご賛同頂けると思います。

ROIは重要な指標であることは間違いありませんが、ROIで考えるケースと、それだけでは考えられないケースがあることを理解し、そして、その場合は何を目的関数にするのか、また、その際の定量化する指標は何かを議論・共有して施策のGo or Not Goを決めることが重要ではないでしょうか?