「SNS」とは(その2)

今回は医薬品マーケティングにおける「SNS」の活用方法を、他の業界の事例などから考察してみたいと思います。

もし、皆さんが、あるサービスや商品に興味を持たれたら、どうやって情報を集めるでしょうか。
・実際に利用している友人、知人に聞く。
・インターネットで検索し、その商品を提供している企業のウェブサイトを見る。
・その商品を提供している企業に資料を請求したり、営業マンを呼んだりする。
・口コミなど、消費者の意見が掲載されているウェブ掲示板を見る。
などの方法があるかと思いますが、私の場合は、口コミ情報が多く掲載されたウェブサイトを見て情報を得る場合が多いです。
商品を提供する企業側から考えれば、その商品のよい部分を知ってもらいたい、という思いから、どうしても良い情報だけを選別して提供してしまいがちです。
これは、私達もそうですし、皆さんがもし自社製品のマーケティングを考える場合もそうではないでしょうか。

しかしユーザーとしては、よい情報やベネフィットだけではなく、ネガティブな情報、批判的な情報も知っておきたい、というのが本当のところだろうと思います。

前回、説明したとおり、「SNS」は、ウエブサイトにブログや掲示板といった機能を付加して、運営者からの情報発信と会員間のインタラクティブなコミュニケーションを可能にしたものです。
ニュース配信機能を「SNS」に組み込めば、「SNS」の運営者は、製品・サービスの内容を理解いただくために、まず、最初に情報提供はおこなうことが可能となります。
そして、その情報をもとに、会員同士が、「実際使ってみてどうなのか?」などの情報交換を行うことになります。
つまり、会員の方が情報を発信することをコントロールすることはできませんが、会員同士のコミュニケーションを促進する情報提供はおこなえるわけです。
会員間のコミュニケーションが活発化し、会員の方の知識や実際の使用経験など「リアルな情報」「ディープな情報」が蓄積されれば、その「SNS」の価値が高まることになります。

自動車会社の事例ですが、車のオーナーが書き込んだ不便な機能について、「SNS」でさまざまな情報が飛び交い、会社側からも意見が書き込まれたりもしました。
こうしたその車のオーナー達や自動車会社の建設的なコミュニケーションを通して、最終的にはその機能が改良され、品質の向上につながったことがありました。
その結果、オーナーの満足度が高まるとともに、ブランド・ロイヤリティも向上したのです。

こうした事例は、医薬品マーケティングにあてはまめることもできるのではないでしょうか?例えば、ある疾患領域で「SNS」を運営していて、薬剤の副作用情報についてある先生から情報発信がおこなわれ、その対策や対応を他の会員に質問する。その質問に対して、別の先生が、副作用に有効な対策を提示し、様々な建設的で活発な議論が生まれ、その薬剤のポテンシャルがあがり、医師、患者、製薬企業すべてにとって有益な結果となる、といったことも考えられます。

運営者としては、自社・製品にとってネガティブな情報、批判的な意見であっても、その意見を真摯にとらえ、対策を提示したり、その意見とは違うエビデンスを提示するなどの対応をすることで、会員である医師の信頼を向上させることもできるのではないでしょうか。

では、実際に、医薬品で実りある「SNS」を始めるには、どうすればいいでしょうか。

これも医薬品と異なる事例ですが、サッカーファンに特化した「SNS」を開始するにあたって、運営者は、最初に、著名な解説者や元日本代表の選手などに会員になってもらえるよう依頼し、また、積極的な情報発信もしてもらえるよう仕掛けました。その結果、サッカーファンの間で、口コミされ、会員が増え、さらに話題が盛り上がりました。
こうした良循環により、更にそれを読みたい多くの人たちが会員の登録を行ったのです。

医薬品マーケティングであれば、影響力の大きいKOLの先生や領域の知識・経験が豊富な先生に、初期の会員となっていただくよう依頼し、活発な意見交換をしていただければ、意義あるSNSを運営できる可能性もあるのではないでしょうか。
初期に登録いただいた先生方の議論が活発になればなるほど、その内容を読みたいと希望される先生方の登録が増え、さらに多くの情報が「SNS」で発信されるようになるでしょう。
このように発展すれば「SNS」は、良質な情報を発信するメディアとして認知され、自社・製品のブランド・エクイティを高めるメディアとなりえます。

医薬品マーケティングにおいては、「SNS」に代表される「Web 2.0」と呼ばれるインターネットの新しい利用法を活用している事例は、ほとんどありません。

運営者が情報をコントロールできないといった難しい問題もあるでしょうが、医薬品マーケティングにおいても、知識の交換により、新たな「知恵」を創発することができる「SNS」の活用も検討してはいかがでしょうか。